高畑のクマ顔にステップを踏み続ける
山﨑―笑い声の絶えない福田組

撮影序盤――10月とは思えないほど汗ばむ陽気に恵まれたこの日、オフィス外のベンチで仲良くランチをする成海(高畑充希)と宏嵩(山﨑賢人)のシーンを撮影。原作に忠実にピンクにカラーリングした成海のロングヘアもかわいく、イケメン&眼鏡&長身と"デキる男感"があふれる宏嵩のクオリティも素晴らしい。しかし愛らしい成海の瞳の下には、思わず二度見するほどの深く広いクマが!もちろんこれはメイク。徹夜で同人誌のネームを描き続けているという設定の成海は、恋人の宏嵩といても常に遠い目で心ここにあらずなのだ。そんな成海が食べるサンドイッチを、「"はむ"ようにしてみて」と監督。思わず「はむ?」と聞き返す高畑に、「パンを唇でなでるように。全然噛んではいないみたいな」と監督自身も半ば笑いながら演出。これには山﨑までつられて笑いだす。宏嵩から「進捗は?」と聞かれ、「まだネームですっ!(涙)」とかなり食い気味で答える成海のクマ顔の寄りに、ひと際大声で笑っていた監督はすんなり「OK」を出す。ほどなく撮影隊はオフィス内に移動。印象的だったのがスタッフの準備を待つ間、常にステップを踏み続けていた山﨑の姿。全くのダンス初心者だったという山﨑は、本作のために猛練習を重ね、いまや「広い場所を見ると踊りたくなるらしい」(スタッフ談)というほどダンサーの血が覚醒。「山﨑さんお願いします!」とスタッフに呼ばれると、軽やかにステップを踏んで立ち上がり、なぜかドヤ顔で軽くポーズを決める彼に「完全にダンサーですね!」と高畑も太鼓判を押す。
続くシーンでは徹夜続きの成海が、出社早々「リサ・トレヴァー」になっているというもの。(元ネタは「バイオハザード」。つまりはゾンビである)肩を落としゆらゆら歩く姿、宏嵩に呼ばれゆっくり振り向く表情などを、自らゾンビ風に実演してみせる監督に高畑&山﨑も笑いが止まらない。このように現場には常に笑い声が響き、撮影がテンポよくスピーディーに進んでいくのも福田組の特徴である。
シーンは日替わり。宏嵩が初めて(そしてあっさりと成海を自身の部屋に誘うシーンへ突入。この日は「成海どん」「旦那」と時代劇モードの2人。普段めったにNGを出さない高畑が「ついていきやすぜ、旦那!」というセリフを、「ついていきやっせ~!」と絶叫する突然のNGに逆に現場は湧く(笑)。「じゃあ俺んちね」と急な現代口調でドストレートに誘うイケメン過ぎる宏嵩に、一瞬完全にフリーズする成海。まんまるに見開かれた高畑の瞳と、そんな彼女を置いてさっさと歩き去る山﨑のツンデレぶり。最高かよ!

徹底的なリアリティでコミケを完全再現

成海が徹夜までして臨んだヲタクとしての主戦場=コミケシーンは、幕張メッセの一部を貸切り、リアルなコミケを完全再現。実際にコミケを取り仕切る人物(ヲタク界では有名人!)に監修に入ってもらい、リアリティしかないコミケシーンが早朝から撮影開始。成海のテリトリーであるBLコーナーは、予想以上に過激なイラストのポスター、フラッグがはためき、そこかしこに露出高めのセクシーなコスプレイヤーが行き交うなど、会場は朝から異様な熱気に包まれている。成海はピンク系でまとめたガーリーなファッションが小柄な体型によく似合っているが、「せっかくかわいい恰好してんのに……目がいっちゃってんだよなぁ」という宏嵩の心の声の通り、瞳孔が開き気味。アドレナリンが出ているぶん(!?)、ハイテンションな芝居が続く。客たちと嬉々としてマシンガントークを繰り広げる成海を優しく見つめる宏嵩。そして大事な"神スペース"を周り忘れていたことに気付いた成海が「あああっっ!!」と絶叫するシーンでは、監督自ら「ああああ~ぃ!!」と叫びの見本を示す。負けじと高畑も「あああああ~ぃ!!!」と渾身の叫び返し。次第にエスカレートしていく2人は、「ええええぃ~!!!」「ああああああああああ~ぃ!!!」となぜかしっかり対峙しながら絶叫。主演女優と監督が見つめ合いながら叫び合うというシュール過ぎる状況の横で、悶絶しながら爆笑する山﨑の姿があったのだった。

荒くれカップル=花子&樺倉のTHE修羅場

2組の男女が部屋で鉢合わせ。通常の恋愛映画だと愛憎飛び交う修羅場になるシーンだが、登場人物が全員ヲタクの場合は別の意味での修羅場に。当日手書きの差し込み台本が入り、花子(菜々緒)と樺倉(斎藤工)の罵り合いがさらに激しく、ばかばかしいものに膨らんでいく。「お前のものは私のもの。私のものは私のものなんじゃい!」(花子)「ジャイアン殺すぞ!コラッ!!」(樺倉)実はこのシーンは原作者=ふじた氏から、「思いっきり下品な言葉のやり取りで喧嘩してほしい」というリクエストがあったとか。確かに台本上「ピー音」が入っている箇所もあり、どんな暴言が飛び出すのかと思いきや……それは我々の想像をはるかに超えたものだった。
シチュエーションとしては先に樺倉宅にいる宏嵩と花子。ガチのコスプレイヤーである花子は、宏嵩に念願だったキャラクターのコスプレをさせ、自身も男装コスで決めている。共にスタイル抜群の2人だが、特に眼帯姿&男装の麗人風な菜々緒に、監督も大興奮!「かっこいいね!」と写真を撮りまくる。そしてそのすべてに躊躇なく応える男前な菜々緒。そこに少しほろ酔いの成海と樺倉が帰宅する。自分の恋人(宏嵩)が初めて訪れた会社の先輩(樺倉)の家で、すごい美女(花子)と謎のコスプレをしている姿がいきなり目に飛び込んできた成海。多すぎる情報量を前にして、「ひひひひひ、宏嵩っっ!!なんで!?」とひきつけを起こしたようなコミカルな高畑の芝居に、モニター前で爆笑する監督。だが全員がヲタクな場合、怒りの矛先は単なる痴話喧嘩にとどまらない。呆然とする成海&宏嵩を前にして、彼氏が自分以外の異性を連れ込んだこと以上に、「コスプレが似合う似合わない問題」でギリギリのワードで激高する花子。これには思わず斎藤も「そ、そんなに言うな~っ!」と半笑いでギリギリのアドリブ返し。「OK!ひど~い!」と笑いながらカットをかける監督に、「え?ほんとにいいんですか?」と突如恐縮する菜々緒。「ピー音がいっぱい入った方が面白いかなと思って(笑)。でも斎藤さんが相手だから遠慮なく言えたんですよ。ほんとすみません……」と平身低頭な菜々緒に、斎藤も思わず笑顔。2人の喧嘩は、コスプレの刀で斬りかかる(!)などアクションシーンさながらで、繰り返されるテイクに2人とも汗だくに。「荒いカップルだな~」と半ば感心モードの高畑と、「僕、(この喧嘩の間)どこを見てたらいいんだろう?」と宏嵩同様、戸惑い気味の山﨑。そんな山﨑に「空(くう)を見つめてたら? だって宏嵩だから」と高畑が送った的確なアドバイスを受けた山崎の芝居に、「宏嵩、今のよかったよ~!」と監督のOKが出る。最後は「お騒がせしました!」とスタッフにまで謝って帰っていく、花子とはまるで別人の菜々緒の姿も印象的だった。

ある種の"ゾーン"に突入した
声優ライブシーン

ここまで初心者とは思えない華麗なダンスシーンを多々披露してきた山﨑だが、坂元(賀来賢人)と参戦する人気声優ライブシーンでも、渾身のパフォーマンスを見せつけた。実際の人気声優=内田真礼が登場するライブ会場は、ハッピ&ハチマキ(シャツはパンツにイン!)、手にはサイリウムを持った100人を超えるヲタク達で埋め尽くされる。彼らのほとんどがプロのダンサーやダンス経験者。キレッキレのダンスと、一糸乱れぬ動きに必死で食らいつく山﨑&賀来の額には早くも大粒の汗が光っている。実際1曲を通しで踊り切ると、全員が肩で息をするほどのハードさ。しかもサイリウムの色をチェンジするタイミングを誰か1人でもミスると、「CGで直してもらうことになります!」と、スタッフからガチのプレッシャーもかかる。これには「こえ~っ!」と笑いながらも本気でビビる山﨑と賀来。だがいよいよ「お前らの神がきたぞ!」(監督)と、内田がステージに降臨すると「ふ~っっ!」と全員が魂の雄叫びをあげ、会場のボルテージは一気にMAXへ! 最前列に飛び出し何かにとりつかれたように踊りまくる2人の表情は、これまでにないほど生き生きと輝いている。バックヤードで「実際の声優さんを前にすると、応援してる感が出る!」(山﨑)「なんか心理が分かってきた。目が合ったような気がするもん!」(賀来)と興奮気味な2人を前に、「いいね!でももう1回いかせて」と笑顔でリテイクを告げる監督。「よっしゃ!もう1回やりたかった!」と気合の叫びを放つ山﨑に呼応するかのように、他のダンサー達も「うっしゃ!何回でもやるぜ!」と全員が異様なハイテンションモードに。ダンサーとして出演していたガチヲタクのラバーガール・大水洋介に、山﨑と賀来が「俺らのダンス大丈夫でした?」と真剣に尋ね、「だいぶいいけど、もう少し愛がほしいね! ここまでくると技術じゃない。愛だから!」と熱血指導を受ける場面も見られるなど、全員が独特なゾーンに突入する。しかしドローンがとらえた上空からの映像は、グリーンに光るサイリウムが一斉にピンクのハート型に光るなど芸術的な美しさ。「うわ~かっこいいじゃん!」と監督のテンションも上がったところで、高畑がこの異様な光景を見て「なっ!!」と口をあんぐり開けるカットのためだけに登場。「みんな踊ってます?」とワクワクした表情で現場入りした高畑だが、実際の光景を前にしてリアルな「なっ!!」が飛び出す。そんな成海を真顔でガン見しながら、なぜか奇妙な走り方で会場を走る宏嵩の姿に監督も「最高!でも彼氏のこんな姿見たらショックだろうね~」と監督も爆笑しつつ成海の心中を慮っていた。

ヲタクの聖地で圧巻の
ミュージカルシーンを決行

ヲタクの聖地=東京ビックサイト。ここで本作の"顔"とも言える最初のミュージカルシーン「いっさいがっさい SAVE THE WORLD」の撮影を敢行。コミケシーンと同じく本格的なコスプレに身を包んだダンサー50人がビッグサイト前に大集結。スーツ姿の高畑&山﨑を筆頭に、巨大ライト、クレーン投入という大がかりな撮影が早朝からスタートした。待機中も常にダンスの振り付けの復習をするどこまでも真面目な山﨑と、自然と一緒に振り合わせを始める高畑。いよいよ大音量で音楽が流れ始めると、軽快なステップを踏みダンサー達と見事なコラボを見せる2人。高畑は高いヒールをものともせずさすがのキレのあるダンス、山﨑は予想以上に高いジャンプを飛ぶなど猛練習の成果は明らかだ。しかし撮影の都合上、1発OKというわけにはいかず、様々なアングルとアグレッシブなカメラワークにより、テイクを重ねる撮影。基本すべて通しで踊り続けるため、全員に次第に疲労の色が濃くなるものの、最後まで集中力を切らさず完璧なパフォーマンスを披露し続けた。ダンスシーンが終了した時は自然と拍手が湧き起こり、互いを讃え合うダンサー達。高畑と山﨑もどこかやり切った充実の表情。現場を訪れた原作者のふじた氏も圧巻の光景を前に、「連載を始めた時はこんなことになるなんて思ってなかったです!」と感動しきり。監督も原作者のお墨付きをもらい、「安心しました」と安堵の表情を浮かべていた。

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